唐突ですが、私は研究が好きで研究者になりました。「研究」は「勉強」とは違います。「勉強」はわかっていることを学ぶことですが、「研究」はわかっていないことを明らかにすることです。既存の技術を改善することも「研究」にはなり得ますが、既存の技術とは全く違うアイデアで、そのアイデアをモデル化し、すばらしさを実証してみせることが「研究」の醍醐味だと思っています。ところで、私の経験からは、すぐれたアイデアは、いざアイデアを考えようとして机に向かって唸っても浮かんできません。それよりもむしろ、通勤の電車の中や、夜お風呂の湯船にゆっくりと浸かっているとき、すなわち、特に何も考えることもなくボーっとしているときに、突然ひらめいてきたりします。先日これと全く同じことを喋っている講演を偶然聞いてすごくびっくりしました。
皆さんはTED Conferenceと呼ばれる世界的講演会をご存知でしょうか?毎年開催されるこの講演会では、各界の著名な講演者が様々なテーマについて講演しますが、インターネットを通じて聴くこともできます(TEDというキーワードで検索すれば、すぐに出てきます)。私も英語の勉強を兼ねてよく聴いています(日本語字幕も出てきます)が、先日「退屈な時に優れたアイデアが思いつく仕組み(日本語訳)」という題目で、Manoush Zoorodi(マヌーシュ・ゾモロディ)というジャーナリストの女性が講演しているのを聴きました。その中では次のようなことが語られていました。以下、引用です。
「実は退屈すれば脳はひらめく。洗濯物をたたんでいる時やお皿を洗っているとき、あるいは窓の外をじっと眺めるなど特段何もしない時に際立って優れたアイデアを思いつくことがある。あなたの体が自動操縦の状態になっている時(特に何も考えていない時)、実は脳は忙しく活動し、アイデアを結びつけ問題解決するための神経結合を新たに形成し、生産的で創造的になる。逆に、時間ができたから、たまった仕事を片付けようとか、たまったメールに返事を書こうとか、忙しく仕事を次から次へと行なうと、脳の資源(グルコース)を使ってしまい、創造的なアイデアを考えるための物理的な資源が枯渇してしまう。」
というものでした。この講演を聴いて、本当に驚きました。私の体験談とほぼ全く同じことを言っているのです。しかも、「何もしていない時に新しいアイデアが湧く」ことには脳科学の面からの根拠があるというのです。
さらに驚くべきことに、これも偶然にもMSNニュースの中で、東京理科大学の脳科学者である篠原菊紀先生のお話が掲載されており、‘ひらめき脳は「居眠り」や「まどろみ」、そして「ながら」で作られる’と題して、‘創造力やアイデアなど「ひらめき」と関わるのが「デフォルト・モード・ネットワーク」という神経活動で、この神経活動は、ぼんやりしているとき、お風呂に入っているとき、散歩しているときなどに活性化することがわかっています’といったことが書かれています。「ボーっとしている時」に、脳内の神経活動がむしろ活性化しており、思いがけない「ひらめき」が得られることがあるとのことです。
お風呂にまでスマホを持ち込んだり、歩きスマホをすることはやめて、ボーっとしている方がいいですね。ただし、「ひらめく」のは、日頃から考えつめている問題に対してで、そのような問題がなければ、ボーっとしていても何もひらめきませんが。
ふたたび唐突ですが、最近はAI(人工知能)という言葉をいろいろなところで見たり聞いたりしますよね。新聞を読めば、AIに関する記事を毎日4~5個は見つけることができます。人工知能の応用といえばロボットを思い浮かべる人も多いと思いますが、AIの応用分野は今や投資の判断、コールセンターの受付など、世の中のあらゆる分野に急速に浸透しつつあります。私は将棋が好きなのですが、AIが現役のプロ棋士を次々と打ち破っています。深層学習という学習法で、過去の膨大な数の棋譜を学習させて、プロ棋士との対戦では、AIは学習した過去の棋譜からもっとも勝つ確率の高い手を選択して指すそうです。従って、AIは実は考えているのではなく、過去の棋譜を思い出して、過去の似たような局面から勝ちに至った手を選択して指しているようです。私が今思っているのは、野球の監督をAIにやらせたらどうなるだろうということです。将棋と同じように、過去の膨大なスコアブックを学習させて、バントやヒットエンドランなど、過去の同じような状況で最も勝ちに至った戦略を選択させるのです。残念ながら、将棋と違って、この「アイデア」を実際に試してみることは難しそうですが、高校野球でAIを監督にして連戦連勝して、甲子園で優勝したりしたら面白いなと、夜湯船に浸かってボーっと考えたりしています。カンピュータと呼ばれた長島監督のチームとAI監督のチームを対戦させたら面白いですよね。
私が日頃考えているつまらない疑問をもう一つ。「柿ピー」というお菓子がありますよね。「柿の種」にピーナツが混ぜてあり、お酒を飲む人にも飲まない人にも人気があります。私が日頃不思議だなと思っているのは、小袋に入っている「柿ピー」に切り口を開けて袋を振って中身を机の上に出そうとすると、ピーナッツが中々出てこず、「柿の種」ばかり出てくることです。私だけの錯覚かとも思いますが、皆さんはどうでしょうか。全く対象は異なりますが、土石流が斜面を流れ落ちるとき、流れ落ちるに従って土石流に含まれる岩石が徐々に表面に浮かび上がってくるという専門家の話をテレビで聞いたことがありますが、このようなメカニズムと関連あるのかなと、考えたりもしています。この「柿ピーの謎」を解明しても、「だからなんだ」と言われそうですが、もしかしたら、混合体からの各構成物質の画期的な分離法などに結びついたりして・・・なんて湯船でボーっと考えています。